品川隆幸の古今東西(14)列島見聞録~奈良編~


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奈良と言えば誰でも思い浮かべるのが東大寺盧舎那仏像、いわゆる大仏さんだろう。
「世界最大の木造軸組建築」と言われているが、巨大な鋳物である。
高温で銅を溶かし、外型と中型のすき間に溶けた銅を流し込んでいる。
しかし、これだけの鋳造技術は今の奈良には残っていない。

ただ、今も奈良に残された古の技術はある。
例えば酒もその一つ。
奈良がその起源だとも言われている。
平城京から出土した木簡には、様々な史実が記されているそうだ。
そんな奈良に伝わっている貴重なものに、「ものづくり」という言葉がある。

この「ものづくり」という言葉は大和言葉で、職人の高度な技術を表現するときに
用いられる。
ところが、現在では「ものづくり=製造業」という意味合いで使われることが多いが、
厳密に言えばこの二つの言葉は起源がちがう。
「製造業」は西洋の「Industrial Engineering」を訳した言葉として普及したそうだが、
その背景には単純作業で大量生産される工業製品を起源とする。
そこで、私はあえてこの古から使われている「ものづくり」という言葉にこだわりたい。
そして古都奈良には、そんな職人技の「ものづくり」が今も伝えられている。

私が訪ねたのは奈良県生駒市高山という場所だ。
ここは「茶筅の里」と呼ばれ、代々続く茶筅師が今もその伝統の技を磨き続けている。
茶道でお茶を点てる際に欠かせない茶筅は、安い中国製品も多く輸入されるようになったそうだが、
この高山は今でも90%のシェアを誇っている。
この伝統的な茶筅の里で、「一子相伝」という言葉を初めて知った。

 


この「一子相伝」とは、技術や芸を自分の子ども一人だけに伝え、他には伝えず秘密にするということだ。
そしてその真髄は、「新しいクリエイティブなことは一切持ち込まず、伝えられた技術や製法を変えること無く忠実に守り続ける。」ということだ。
職人技を守り伝えるための大事な極意なのだ。
ここ高山の茶筅を作る技も、この「一子相伝」により守られてきたそうだ。

私が訪ねたときに、その職人技の一旦を見せてもらった。
その技たるや、まるで魔法の手かと思う程の見事さで、自在に竹を操り形を作っていく。
その職人さんの名は久保左文さん。
茶筅師としてのキャリアは50年だという。
奈良県高山茶筅生産協同組合の理事長であり、また、生駒市商工会議所の会頭も務めておられる。

そんな超ベテランの左文さんが、茶筅の行程で特に難しいのが「味削り」だという。
(※味削りとは、茶筅の穂先を細くカットし、薄く綺麗に曲げる行程。)
「味削り」は、茶筅の穂先を形作る行程で、この削り様によって茶の味が変わると言われる重要な行程だ。
この「味削り」の技術の習得には5年はかかるそうだ。

少し技術的な話になるが、茶筅の製作行程には小割り、味削り、面取り、下編、上編、腰並べという細かな行程があって茶筅として仕上げられていく。
これらの行程意外に全部で8行程あり、それぞれを一人ずつが受け持つ分業制で成り立っている。
これらの行程はどれも習得に時間がかかり、そう簡単には真似は出来ない。
500年以上続いている高山の茶筅作りは、その間に諸国から技を盗もうと大勢の人が試みたらしいが、丸みを帯びた独特な茶筅の形状は、どうしても他では真似ができなかったようだ。
そのため、現在でも国内生産の90%以上はこの奈良の高山で作られている。

さて、先の左文さん曰く「茶筅に上がり穂と下がり穂というものがあるには、理由がある。」とのこと。
そこに「一子相伝」の真髄があるという。

まず、茶筅には60種類余りのバリエーションがあるという。
しかし構造は共通している。
茶筅の直径約20mm、茶筅の先までの長さは85mmから127mm。
全てが丸みを帯びた形状で中に下がり穂(芯)、そして外に上がり穂がある。
この繊細な形状は実によく出来ている。
その理由は、上がり穂だけだと撹拌しても茶かすが茶碗の底の茶だまりに溜まったままで撹拌されず、茶が点たない。
しかしこの下がり穂があることで、はじめて茶だまりに溜まった茶を撹拌できて、茶を点てることができるというわけだ。
竹を削っただけで出来上がるこの茶筅という小さな道具に、実に様々な知恵と技術が込められている。

茶筅の起こりは室町時代に遡り、ここ高山で考案された茶筅を、時の天皇に献上したのが始まりだそうだ。
このときに考案された製法を代々「一子相伝」の秘伝の技とし、今日まで伝わっている。
以後、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、千利休、そして時の貴族等、錚々たる人たちが茶のうまさに感服し、魅了されて広まった。
その茶の魅力を一層引き出したのが、まさにこの茶筅だ。

茶筅作りは多くの行程に分かれている。
その最初の行程は竹選びからだ。
高山の茶筅には淡竹(はちく)と黒竹が主に用いられる。
しかし茶筅に最適な竹とは、直径20mmとかなり小さいものだ。
これは竹としては成長不十分なものであるが、このサイズの竹を探し出すのがまず大変な作業だそうだ。
中でも2〜3年ぐらいの粘りのある竹を選び出す。
そして竹を切り出すのは冬の寒い時期だ。
この厳寒の時期に天日干しする。
こうして貯蔵された竹を切断し、次の行程に入る。

茶筅作りの職人は、一人前に成長するには長い年月が必要だ。
一つの行程を習得するのに3年はかかるそうだ。
頭で覚えるのではなく、身体で覚えるまで繰り返す。
そうでないとなかなか身に付かない。
そして全8工程を習得しようとすると、優に24年はかかる勘定となる。

難しい材料調達と、育成に長い年月がかかる職人技。
茶を点てるという小さな道具にかけられるその労力には、計り知れないエネルギーを必要とする。
そんな繊細でエネルギッシュな茶筅にも、今や海外から安い商品が流れ込んでくる。
そんな厳しい価格競争の中でも、協同組合の久保理事は、
「高品質の茶筅で、真っ向から中国製品と勝負したい。そのためには原材料が大事だ。」と語っていた。

茶筅とは、単に茶を点てる道具に非ず。
茶筅とは、卓越した職人芸が生み出す奥深い芸術作品である。
何故なら、極みに至った形には、それ以上何もつけ足し様がないからだ。
何も変えずに技術を守り続けることは、変化させていくことよりさらに難しい。
茶筅作りの現場を訪れ、厳しい伝統の技に触れたときに、身の引き締まるような思いがした。
そこに大和言葉として伝わる「ものづくり」の真髄を見た。

しかし、その後頂いた一服の茶で、その緊張がすっとほぐれた。
私は今でも、あのとき高山でいただいた、馥郁とした香りと腹に染み入るような茶の味を思い出す。
日本人で良かった…と思った瞬間だった。
きっとあの味は終生忘れないだろう。

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