品川隆幸の古今東西(22)ロダン21モノ作り相談デー

メカニカルシール
ロダン21では毎週水曜日と金曜日の週に二日、「モノ作り相談デー」として、
モノ作りの相談を受け付けている。
私の専門はゴムや樹脂加工だが、ロダン21にはあらゆるジャンルの相談がやってくる。
私にとって、初めて聞くこと、見るものも多い。
しかし、ロダンのメンバーに都度相談すると、大抵のことは回答が返ってくる。
しかも材質の特徴や加工の仕方、使用用途等も分かる。
様々な分野の社長、職人の専門家集団だからだ。
さすが東大阪、頼もしい限りだ。
こうやって、モノ作り窓口をロダンで開いて、今年で15年になる。
しかしまだまだ、コーディネーターとしては知らないことが多い。

つい先日も、ステンレスについて新たに知ることとなった。
ステンレスというのは、鉄を機材にニッケルとクロムの合金である。
もちろん、その程度のことは知識としては知っていた。
ステンレスでよく使われるのが18-8ステンレス。
ご存知の方も多いだろうが、この18-8ステンレスはキッチンのシンクや手術用の機器類、
その他建築材等幅広い用途で利用されている。
鉄は錆びるがステンレスは錆びない。
私の中にはその程度の認識はあったが、それ以上にステンレスについての
詳しい知識は無かった。

たったこれしきで、簡単に「できません」とは言いたくはない

しかしこの度の相談は、この一般的なステンレスでは役に立たない内容だった。
相談内容はある機械に取り付けられた細長い金属製のピンを、曲がらない素材で
作って欲しいとのことだった。
サイズは長さ30センチ、直径6ミリの棒状。
形状は鉛筆の芯のように先を尖らせてある。
このピンの使用用途は、加工機で加工する際にカスを押し出す押出ピンとして
使われているモノだ。

これまで相談者が使用していたこの細長いピンは、使用中にどんどん曲がってしまうという材質。
これがこの機械の圧力で曲がらないだけの強度を持ちながら、しかも錆びない材質で作りたいという。

相談を受けたときはさほど難しいと感じなかったので、二つ返事で引き受けた。
錆びない材質であれば、ステンレス製なら大丈夫だろうと簡単に考えていた。
ステンレスはもともと、鉄が基材なのでそう固い材質ではない。
むしろ案外強度はなく、このような形状でこの圧力だと簡単に曲がってしまう。
しかし、ステンレスにも色々種類があるので、その中には圧力に耐えられるものも
あるはずだとタカをくくっていた。
しかし、そうは問屋が卸さない。
調べてみると、相談者の使用条件に見合うステンレスがないことが分かった。

早速このステンレスという材質で壁にぶち当たった。
これまで相談者が使用していた材質はSUS18-8(SUS304)であり、これまでならその材料が
最善ですと回答していただろう。
しかしそれでは相談者の希望を叶えられない。
いや、それだけでなく、私自身も面白くないし、納得がいかない。
たったこれしきで、簡単に「できません」とは言いたくはない。

そこでロダンのメンバーにこの案件を持ち込んで相談してみた。
すると、同じステンレスでも焼き入れをすることでより強度が増すものがあることが分かった。
しかし今度は、この焼き入れを施したステンレスは錆びるのだ。
なんと、困ったものだ。
 

ステンレスという材質

ステンレスという材質は、代表的なものにSUS304、SUS430がある。
この二つの大きな違いはSUS304が非磁性なのに対し、SUS430は磁性があることだ。
(SUS304はオーステナイト組織、SUS430はフェライト組織のため)。
その他にもSUS200番台、SUS300番台、SUS400番台、SUS600番台、、、その他多数ある。
ステンレスはその使用用途が広がるにつれて、種類が増えていったのだ。

その他にも400番台の代表格SUS430は焼き入れができる。
焼き入れをすることで固くなる。
よく使われているのは、包丁等の刃物類だ。

その他には建築資材としてステンレスはよく利用されている。
ドア等に使われるピカピカ光るステンレスは、さらに研磨することで鏡のようになる。
また,
IH(電磁調理器)は磁性を帯びているSUS400番台でなくてはならない。
そして、装飾としてヘアライン加工(金属の表面処理加工の一種で、
単一方向に髪の毛ほどの細かい傷をつける加工法)を施せば傷がつきにくくなる。
何かと利用される優れもののステンレスだ。

パイプ加工

古くて新しい「鉄」

しかし、そのステンレスの基材は先ほども述べたが鉄だ。

鉄は太古の昔から利用されており、刀や槍、甲冑、器、その他日曜雑器として多数使われてきた。

鉄は錆びるが、耐候性鋼のように表面に保護性錆(安定錆とも呼ぶ)を形成するように

設計されたものもある。

この耐候性鋼は保護性錆が形成され、錆の進行が止まる。

鉄でありながら、それ以上錆びないのである。

また、炭素鋼であれば焼き入れすることで硬くすることもできる。

であれば、SUS430を焼き入れすることで硬度は増すのか?

そこで改めて見積もりしてみると、まったくコストが合わないことが分かった。

SUS430もSUS304も、原材料としての価格はさほど違わない。

しかし、SUS430を焼き入れすると加工がしづらくなることで、加工費が跳ね上がるのだ。

しかも硬度がどれだけ増すかは不透明。

やってみなくてはわからない。

そうこうするうちに、S45C(炭素鋼)は金型や軸受けピン等に利用されていることを知り、

ハタと気がついた。

これまで錆びないためにステンレスにこだわってきたが、錆はするがS45Cで

焼き入れしてクロムメッキを施せば、ステンレスよりも硬く、錆びることも無い。

結局この件は、この方法で進めることにした。

しかし今回改めて、金属の種類の多さ、用途の多さ、そして選択の難しさを感じた。

今はあらゆる合金を製造することが可能だ。

例えば鉄や銅、亜鉛、鉛、アルミニウムなどのベースメタルにレアメタルを少量まぜることで、

とんでもない性能の金属を作り出すことが出来る。

今の我々の文化的生活を支えているのは、まさにこういった人間の技術だ。

鉱物だけでなく、植物や化石燃料やガスも変化させて便利に利用している。

だが、その原材料となっている物質そのものを人の手で作り出すことは不可能だ。

したがって、ここで自然と共存できるバランス感覚が必要となる。

あじさい

製造業にも必要な「センス・オブ・ワンダー」

今、このバランス感覚こそが我々製造業にとって必要とする「センス」なのではないかと思う。

かつて 化学薬品による環境汚染にいち早く警鐘を鳴らしたレイチェル・カーソンによって

記された、「センス・オブ・ワンダー」という著書がある。

レイチェルがこの本で最も伝えたかったのは、すべての子どもが生まれながらに持っている

「センス・オブ・ワンダー」、つまり「神秘さや不思議さに目を見はる感性」を、

いつまでも失わないでほしいという願いだ。

今我々製造業にもこの「センス・オブ・ワンダー」が必要とされているように思う。

地球上のどの生物も人間と関係無いものはない。

雑草と呼ばれる草花も、目に見えないバクテリアも、これらの生物と共存することで

人間は生かされている。

この自然と共存する中で、安心な環境が保たれ、生活することができる。

環境のことを十分考えてモノづくりをしよう。
必要なものだけを作ろう。
売れそうにないモノは作るのをやめよう。


しかし、これからは新しい時代がやってくる。
そしてその新しい時代に新しく必要なモノはたくさんある。
きっと、新しい発想から、今までにないモノ作りが生まれてくるだろう。
そしてそのモノ作りに携わるならば、環境に留意して進めなくてはならない。


改めて気を引き締め、決意した今日この頃である。

 

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