品川隆幸の古今東西(13)列島見聞録~京都編~


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今回は、数年前にお邪魔した京都の西陣にある織り元での衝撃をお伝えしたいと思う。
西陣は、今でも伝統と技術を継承し、昔ながらの京都の町を彷彿とさせる風情が残っている。
この町に今も息づいている西陣の職人達を訪ねた。

この時訪ねた会社の工場長は、伝統工芸師として50年のキャリアがある手織の帯職人だ。
培われた技術を駆使して、次々と新商品の開発を手がけている。
そのベテラン職人が言い放った言葉が衝撃的で、今も私の耳に残っている。

「伝統とは革新の連続です。
職人技には、これで終わりということは有り得ない。
古い技術の伝承だけではいずれ取り残されてしまう。
だから私も、常に新しい帯づくりに挑戦し続けています。」

この言葉の重みは、後に知ることとなる。
さて、一口に西陣織と言っても、その背景や詳細を知る人は案外少ないのではないだろうか。
西陣織の伝統は、約1200有余年。
平安時代より宮廷の高級織物を製造管理する「織部司」がその発祥だ。
そして後に、10年続いた応仁の乱の戦火を逃れた職人たちが陣地跡に戻り、諸国で覚えた技術をもってして
京織物を復興させたことが始まりだそうだ。

西陣織の特徴としては先染めの絹織物である。
そして織の行程に入るまでに多くの準備工程が必要であり、その20を越える各工程は全て分業制となっており、
図案、意匠紋紙、撚糸、糸染などの業者が独立して企業を営んでいる。
西陣とは、中小企業の集合体なのだ。

しかし、中にはもう引き継がれていない技術もある。
織機に用いられる竹筬(たけおさ)という道具は、機織りの際に経糸(たていと)の幅を決めるためのもので、
竹で出来た細かい櫛のような形をしている。
残念ながら、今ではこの竹筬を作るための一部の行程を担える職人が、日本にはもういなくなっているそうだ。
そして心ある方たちが、竹筬(たけおさ)の復活のために研究を重ねているそうだ。
数多くの行程、数多くの職人に支えられながら伝統技術は引き継がれているのを知った。

そんな数ある行程のなかでも、爪掻本綴織(つめかきほんつづれおり)は厳格に守られた技法だ。
大変手間のかかる作業であるため、1日かけてわずか数センチしか織れないこともあるそうだ。
これもまた、西陣織の大きな特徴の一つである。

 

 

 

この大変手間のかかる西陣織は、帯や着物以外に、近頃はネクタイや室内装飾にも用いられている。
また、寺の門主の九条袈裟や衣、本堂の柱周りに使う装飾織物、力士の化粧回し、そして祇園祭の山鉾の屋根下を飾る水引に用いられている。

祇園祭の花は、なんといっても32基の山鉾巡行。
その山鉾に用いられる前掛、胴掛、水引、見送などには、贅を尽くし壮麗な西陣織で飾られる。
やはり、京都の西陣織は日本の美の最高峰、最高のモノづくりだろう。

ちょうどこの時お邪魔した織り元では、北観音山(山鉾の名前)の水引を復元中だった。
6、7人の若い女性の織子たちが綴機(つづればた)の前で、一心不乱に織っていた。
私は、手織りの織子さんといえば熟年の方ばかりだとイメージしていた。
しかし、この織元では20代の若い女性が4人も働いておられた。
意外にも、若い人が伝統の仕事に携わっているのに驚いた。


その訳を社長にたずねてみると、インターネットで織子を募集したところ全国から応募があり、4人のうち二人は京都以外の地方から働きにきてもらうことになったそうだ。
応募してきた若い人たちは、小さいときに西陣織会館の見学で実演を見て、是非何百年も残る素晴らしい綴織の仕事をしたいと思ったのだそうだ。

彼女たちはまだお洒落を楽しみたい年頃だろうと思うのだが、その顔はノーメイクで香水もマニキュアも無し。
それどころか爪をよく見せてもらうと、ギザギザと櫛のように溝がくっきりと彫られている。
その爪でひっかかれたら、さぞ血まみれになるだろう。

実はこのギザギザの爪は、西陣織の織子さんには欠かせないものだそうだ。
この櫛状の爪を使って経糸(たていと)を数本ずつ掬い上げて横糸を通す。
そして通した横糸を締込むために、このギザギザの爪を使うそうだ。
この作業のために織子さんたちは利き手の爪を伸ばし、人差し指と中指の爪をのこぎりの
歯のようにヤスリで刻む。


この手間のかかる作業が、あの繊細な西陣織の美しい織柄となっているのだ。
そして爪だけでなく、貴重な反物に匂いや化粧が移らないようにと、ノーメイクで香水もつけないのだとか。
それはまるで女性の美しさと引き換えにあの美しい織物が出来上がっているようで、

一瞬ツルの恩返しの昔話を思い出された。

西陣織の複雑な文様は、ベテランでも一日に1センチ四方しか織れないと言われる。
大変根気がいる作業で気を抜くことができず、心身ともに疲れる作業だ。
従って長期間を要する織物は、10日ごとのローテーションで担当者が交替するそうだ。

そんな複雑な綴織の文様は、図案を経糸の下に置き、その図案を確認しながら綴るように横糸で文様を織り出していく。
経糸よりも3倍程太い横糸で縦糸包むように織る。
織り上がった織物の表面には、縦糸が見えないのが西陣織の特徴だ。

今、日本の伝統美を紡ぎだしているのは若鮎のような白い指と化粧気のまるで無い、若き織子さんたちだ。
しかし、彼女たちは大和撫子の原点とも言えるだろう。
なぜなら、彼女たちは可憐であり、そして自らの技に磨きをかけて、より高い技術と果敢に新しいものにチャレンジしていく芯の強さを持ち合わせてる。
そんな彼女たちがこれから成長し、どんな素晴らしいものを生み出していくのかが本当に楽しみだと感じた。
京都の西陣は、また訪れてみたい街の一つだ。

そしてそんな西陣には、「織成館(おりなすかん)」と「西陣織会館」という施設がある。
ここは、各織元のユニークな商品に出会える場所だ。
中でも驚いたのは、肖像画ならぬ肖像織(特許取得済み)を開発し、販売している織元がある。
これは手織りだけでなくハイテク技術を駆使した新しい技法だ。
人物の写真をスキャニングしてデータ化し、ダイレクトジャガード織機に取り込み製作するという、大変ユニークなものだ。

また、袈裟や化粧回し等で分かるように、15色程の色糸や金糸銀糸、金箔糸を使い織り出す織物は、豪華絢爛だ。
これは西陣織ならではの織物だ。
このような独特の美しい織物は、今国外からも熱い視線が寄せられている。
また、日本国内でも着物を見直すブームが起こりつつあり、これまでの伝統にあぐらをかくこと無く、「待ち」から「攻め」に転じるメーカーも現れてきた。

西陣織の織元は、受注生産は1/3程で、残りの2/3は自社でリスクを背負って製造、販売を行っているそうだ。
このリスクを畏れず挑戦する精神がある限り、新しい市場は開けてくるだろう。
今は西陣織自体の生産は縮小傾向にあるとしても、織元のモノ作りへの情熱と開発精神は健在だ。

ここで先のベテラン職人の言葉がまた思い起こされる。
「伝統とは革新の連続」だ。
この言葉の中に、改めて西陣織の底力を見た思いがした。

 

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